2025.4.23

「横尾忠則 未完の自画像 - 私への旅」がグッチ銀座 ギャラリーで開幕。70年万博の再現展示も

グッチ銀座 ギャラリーで「横尾忠則 未完の自画像 - 私への旅」が開幕した。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より
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 グッチがグッチ銀座 ギャラリーを舞台に、横尾忠則の個展「横尾忠則 未完の自画像 - 私への旅」をスタートさせた。グッチと横尾のつながりは、2020年にグッチ渋谷 ミヤシタパークのオープニングを飾ったウィンドウ アートプロジェクトまで遡る。本展はそのコラボレーションをさらに発展させたものだ。

展示風景より

 横尾忠則は1936年兵庫県生まれ。56年より神戸新聞社にてグラフィックデザイナーとして活動後、59年に独立。唐十郎、寺山修司、土方巽といった舞台芸術のポスターなどを数多く手がけ、69年にパリ青年ビエンナーレ版画部門大賞を受賞。72年にはニューヨーク近代美術館で個展を開催するほどの活動を見せるも、80年7月に同館で開催されたピカソ展に衝撃を受け、「画家宣言」を発表。以降、画家として精力的な活動を続けている。

 2012年に横尾忠則現代美術館が、13年には豊島横尾館が開館。近年の個展に、「横尾忠則 寒山百得」展(東京国立博物館、2023)、「横尾忠則 連画の河」(世田谷美術館、2025)などがある。

新作は家族の肖像画

 横尾は約60年にわたり、ひとつの完成形にはとどまることなく、つねに変貌と挑戦を繰り返してきた。本展のテーマである「未完」は、芸術の創造性は完成された瞬間よりも、むしろ未完成であることにこそ宿るという、横尾の美学に基づくものだ。

 本展のキュレーションは美術評論家・南雄介。「Y字路」シリーズを含む、「旅」を想起させるテーマを描いた作品を中心に約30点が並ぶ。

展示風景より、「Y字路」シリーズ

 このうち初公開となるのが、家族の肖像画像6点だ。自画像や家族などが、近年横尾が取り組む「朦朧体」で描かれており、家族や自分といった存在の「わからなさ」が表現されている。

展示風景より、左から横尾忠則《家族総出演》《赤坂御苑》《未完のMORAL》(すべて2025)
展示風景より、左から《寄り路》《出発》《椅子だらけの自画像》(すべて2025)

55年ぶりの再現

 また注目すべきは、2フロアを貫く巨大なインスタレーション《未完の足場》だろう。真っ赤な足場に絵画を組み合わせたこの作品は、1970年の大阪万博に由来するものだ。

展示風景より

 当時、「せんい館」の建築デザインを担当した横尾は、建設現場の足場を気に入り、それを真っ赤に塗って残したというエピソードがある。本作は当時のイメージを55年ぶりに再現したもので、せんい館の看板の代わりに豊島横尾館のセンターピースである《原始宇宙》(2000)の原寸大レプリカが屋上に展示された。未完成の状態を重視する横尾の変わらぬ考えが垣間見えるインスタレーションだ。

展示風景より
展示風景より、中央が《原始宇宙》(2000)の原寸大レプリカ

 なお、グッチは今年、創造性を通じたコミュニティとの共創をテーマに日本国内でアートプロジェクトを多面的に展開予定。本展以外にも、ファッションブランドとして初めて「瀬戸内国際芸術祭2025」の公式パートナーを務めることとなっている。