画家ゴッホを世界に広めたヨーというひとりの女性。原田マハ(作家)×大橋菜都子(東京都美術館学芸員)対談
フィンセント・ファン・ゴッホを世に広めたファン・ゴッホ家と、その家族が受け継いできたファミリー・コレクションに焦点を当てた展覧会「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」が、今年の9月12日から東京・上野の東京都美術館で開催される。本展で重要な登場人物となるフィンセントの家族、とりわけ義理の妹にあたるヨーについて、作家の原田マハと本展企画担当の大橋菜都子(東京都美術館学芸員)に対談で迫った。

フィンセント・ファン・ゴッホ(以下フィンセント)を世に広めたファン・ゴッホ家と、その家族が受け継いできたファミリー・コレクションに焦点を当てた展覧会「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」が、今年の9月12日から東京・上野の東京都美術館で開催される。
本展で重要な登場人物となるフィンセントの家族、とりわけ義理の妹にあたるヨハンナ・ファン・ゴッホ= ボンゲル(以下ヨー)は、義兄であるフィンセントや、フィンセントの弟でありヨーの夫であるテオドルス・ ファン・ ゴッホ(以下テオ)の死後、フィンセントの作品を世に出すことに人生を捧げ、画家として正しく評価されるよう奔走した立役者。今年の6月末に出版された『ヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲル 画家ゴッホを世界に広めた女性』という、日本語訳されたヨーの評伝についても触れながら、作家の原田マハと本展担当の大橋菜都子(東京都美術館学芸員)に、ヨーというひとりの女性について対談で迫った。
ようやく光が当たり始めたヨーという存在
大橋菜都子(以下、大橋) 今回、展覧会に先立ち『ヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲル 画家ゴッホを世界に広めた女性』という、フィンセントの義理の妹・ヨーの評伝が日本語版として出版されましたが、どのように受け止めていらっしゃいますか?
原田マハ(以下、原田) 「ついに出た」と思いました。フィンセントについては、長い間注目が集められてきましたが、実際彼は10年間くらいしか画家として活動していません。この短い画業の間に、行ったことや書いたことをここまで徹底的に調べられ、共有されているアーティストってそんなにいないと思うんです。仕事柄様々な作家について調べるなかで、なぜフィンセントだけこんなに知られているのか、とずっと思っていました。
彼の画業を世の中に伝えたはじめのひとりは弟のテオですが、じつはよく調べてみると、テオはフィンセントが亡くなったわずか半年も経たない間に亡くなっています。
ではいったい誰が、この2人の兄弟の絆や壮絶な人生、そして作品が生まれる過程を世の中に広めたのか。それは、弟テオの妻であったヨーなんです。フィンセントをプロデュースしアーティストにしたのは、なんとひとりの女性だった。
なんの血のつながりもなく、あるときからファン・ゴッホという苗字を名乗ることになってしまっただけの女性。最初にそれを知ったのは学生のときでしたが、すごく驚いた記憶があります。調べていくうちに、このヨーという人物はもっと脚光を浴びてもいいのではないかと思っていたので、今回の出版はとても嬉しく感じています。
