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2025.4.19

ジブリ映画『もののけ姫』のタピスリーが示すものとは? 大阪・関西万博のフランス館に登場

4月13日に開幕した「大阪・関西万博」。そのフランス館の展示に、スタジオジブリによるアニメーション映画作品『もののけ姫』を一場面を織り上げたオービュッソンのタピスリーが登場した。同館がこの作品を展示した意図とは?

文=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

大阪万博フランス館に展示されたオービュッソンのタピスリー「呪いの傷を癒すアシタカ」映画『もののけ姫』の一場面より © 1997 Hayao Miyazaki / Studio Ghibli, ND
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 現在開催中の大阪・関西万博 フランス館、スタジオジブリによるアニメーション映画作品『もののけ姫』の一場面「呪いの傷を癒すアシタカ」を織り上げた、オービュッソンのタピスリーが展示されている。

 オービュッソンとは、フランス ヌーヴェル・アキテーヌ地方にある小さな村。約6世紀前に同地で誕生したタピスリー工芸を得意としており、2009年には無形文化遺産に指定された。そして、この伝統工芸の保存・継承を行っているのが、オービュッソン国際タピスリーセンターだ。同センターは、約6000以上のタピスリーコレクションを所蔵しているほか、ピカソらをはじめとした20世紀後半の芸術家らの絵画作品をタピスリーとして再現。その魅力を伝えながら、現代そして未来に向けた文化の継承を実践している。

オービュッソンの街並み © Jérôme Trindade - Creuse Tourisme
国際タピスリーセンター © Jérôme Trindade - Creuse Tourisme

 オービュッソン国際タピスリーセンターでは、2017年より大型タピスリーのプロジェクトを開始。その一環として企画されたのが、このスタジオジブリとのコラボレーションだ。パートナーシップの実現後には5点の連作を制作することが決定し、その一番最初に制作された作品が今回展示されているものとなっている。

展示風景より 撮影=筆者

 場面の選定にあたっては、該当作品を鑑賞し、もっとも興味深いと思われる場所をピックアップ。その後、宮崎駿からの構図修正などを受け、下絵作業に取り掛かったという。同センター館長のエマニュエル・ジェラールによると、このタピスリーの制作にあたってとくに重要であったのは、アニメーション作品ならではの時間の流れを、どのようにテキスタイルに留めるかということだったそうだ。加えて、各場面の持つ色や構図、そして音の表現なども踏まえて、光、水、樹皮といったそれぞれの質感をどのような素材と織り方で演出するかという点にも注力しているという。つくり手による細部に至るまでの考察が、この没入感ある画面を生み出していると言えるだろう。

「呪いの傷を癒すアシタカ」《Ashitaka soulage sa blessure démoniaque》
映画『もののけ姫』の一場面を基にしたタピスリー下絵の一部
© 1997 Hayao Miyazaki / Studio Ghibli, ND
「メイとトトロのお昼寝」《La Sieste de Mei et Totoro》映画『となりのトトロ』の一場面を基にした下絵に合せて色を選ぶ
© 1988 Hayao Miyazaki / Studio Ghibli
© 2024 Cité internationale de la tapisserie
「カオナシの宴」『千と千尋の神隠し』を織る
© 2001 Hayao Miyazaki / Studio Ghibli, NDDTM
© 2021 Cité internationale de la tapisserie
大阪万博での展示に向け搬出されるタピスリー
© Cité internationale de la tapisserie

 今回のコラボレーションについて、スタジオジブリの執行役員で、海外事業を担当する西岡純一は次のように語る。「オービュッソン国際タピスリーセンターよりオファーを受けたのち、その実績やものづくりの素晴らしさを拝見し、パートナーシップを結ぶに至った。パビリオン内でタピスリーを拝見したが、その精巧さに驚かされるとともに、人間の手仕事ならではのパワーや情熱が加わっているように感じた。アニメーション作品において、映像フィルムを残していくことは、現在の技術ではまだ難しいこと。しかし、数百年先にも受け継ぐことができる『織物』として残すことは、もしかすると意義があることなのかもしれない。スタジオジブリの作品がこのようなかたちで未来へ伝えられることを嬉しく思うし、オービュッソンの皆様に感謝を申し上げたい」。

 また、フランス館の総監督を務めるジャック・メールは、同館におけるこのプロジェクトの意義について次のように語った。「アーティスティックなパビリオンにしたいと考えていたなかで、当初より展示することが決まっていた作品がこのタピスリーだ。マッピングでもAIが創り出したものでもない、むしろ逆を行く存在として、それは来場者にいったい何を語りかけるのか。また、人間、動物、自然が描かれたこのシーンは、人間の行為によって変更される現状を考えさせられるものでもある」。

会場風景より 撮影=筆者
左から、クリステル・シャサーニュ(ヌーヴェル・アキテーヌ地方観光局会長)、ヴァレリー・シモネ(オービュッソン国際タピスリーセンター会長)、エマニュエル・ジェラール(同センター館長)、西岡純一(株式会社スタジオジブリ)、ローラン・コルベル(ラスコー国際壁画美術センター副館長)、サンドリーヌ・ムシェ(在京都フランス総領事)

 このタピスリープロジェクトでは、すでに『風の谷のナウシカ』『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』を題材とした作品が完成しており、現在は『となりのトトロ』のワンシーンを鋭意制作中とのこと。なお、愛知県立美術館では、愛知万博20周年記念事業 特別展示として、このうちの『千と千尋の神隠し』のタピスリーが展示されているため、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

「ハウルの恐れ」《La Peur de Hauru》
タピスリー(映画『ハウルの動く城』の一場面より)
© 2004 Diana Wynne Jones / Hayao Miyazaki / Studio Ghibli, NDDMT
製織:Atelier Tapisserie Guillot(オービュッソン、2023)
© 2023 Cité internationale de la tapisserieコレクション
© Photo: Studio Nicolas Roger
「カオナシの宴」《Le Banquet du Sans visage》
タピスリー(映画『千と千尋の神隠し』の一場面より)
© 2001 Hayao Miyazaki / Studio Ghibli, NDDTM
製織:Manufacture Robert Four(オービュッソン、2023)
© 2023 Cité internationale de la tapisserie コレクション
© Photo: Studio Nicolas Roger
「メイとトトロのお昼寝」《La Sieste de Mei et Totoro》
カーペット下絵(映画『となりのトトロ』の一場面より)
© 1988 Hayao Miyazaki / Studio Ghibli
© 2024 Cité internationale de la tapisserie コレクション
© Photo: Studio Nicolas Roger