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2025.7.1

「美術の遊びとこころⅨ 花と鳥」(三井記念美術館)開幕レポート。身近な自然と動物は古美術でいかに花開いたか

東京・日本橋の三井記念美術館で日本、東洋の古美術に親しむことを目的として企画された「美術の遊びとこころⅨ 花と鳥」が開幕した。会期は9月1日まで。

展示風景より、《青磁牡丹文不遊環耳付花入》(南宋・元時代)
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 東京・日本橋の三井記念美術館で「美術の遊びとこころⅨ 花と鳥」が開幕した。会期は9月1日まで。担当は同館主任学芸員の海老澤るりは。

 本展は日本、東洋の古美術に親しむことを目的として企画された展覧会「美術の遊びとこころ」シリーズの第9弾。テーマを「花」「鳥」として、絵画、茶道具、工芸品に登場する花と鳥を観察することができる。

展示風景より、手前が駒沢利斎(春斎)《春野蒔絵棗 了々斎好 吸江斎在判》(19世紀、江戸時代)

 会場入口では南宋・元時代の銘品《青磁牡丹文不遊環耳付花入》が来場者を迎える。本展のテーマのうちのひとつ「花」を象徴するかのように、その胴には大きな牡丹の文様があしらわれており、柔らかな花びらの造形が印象的だ。腰に連なった蓮の花びらとも相まって、単色ながらも華やかな空気が器を包み込む。

展示風景より、《青磁牡丹文不遊環耳付花入》(南宋・元時代)

 陶磁器の、釉の質感を活かした様々な表現も目を引く。野々村仁清による《色絵蓬菖蒲文茶碗》(17世紀、江戸時代)は、胴に茶褐色の釉を流し掛け、掛からなかったところにヨモギとショウブを描いた。流し込みの偶然性をうまく生かしながら、植物の瑞々しさを引き立てる細やかな美意識が光る。

展示風景より、左が野々村仁清《色絵蓬菖蒲文茶碗》(17世紀、江戸時代)

 足利義政が所持した唐物肩衝茶入を代表する銘品《唐物肩衝茶入 銘 遅桜》(12〜13世紀・南宋時代)。本品より早く世に知られた唐物肩衝茶入《初花》(徳川美術館蔵)と対比し、初花よりも珍しい遅咲きの桜に例えてこのように命名したという。室町時代の言葉による高度なは、その銘にも現れる。

展示風景より、《唐物肩衝茶入 銘 遅桜》(12〜13世紀・南宋時代)

 絵画作品は鳥を描いたものが数多く展示されている。伝牧谿筆の《連燕図》(13世紀、南宋時代)は、蓮の花で羽を休めるツバメを潔い筆致により描いたもの。薄墨で描かれた蓮や葦とは対照的に、ツバメは濃い墨で描かれており、その対比が鮮やかだ。

展示風景より、右が伝牧谿筆《連燕図》(13世紀、南宋時代)

 《海辺群鶴図屏風》(1885)は、北三井家の8代目、三井高福の筆によるものだ。円山応挙の同名の屏風を写したもので、海辺に立つツルの群れの躍動感あふれる描写が魅力だ。絵画、書、工芸など多才を発揮したという高福を忍ばせる一品。

展示風景より、三井高福《海辺群鶴図屏風》(1885)

 渡辺始興筆の《鳥類真写図巻》(18世紀、江戸時代)は、全長約17.5メートルに63種類の鳥が描かれている。始興が24年間の長きにわたり、鳥を観察して描かれたという本図巻の傍らには実在の鳥の写真が置かれ、描かれた鳥たちと見比べながら鑑賞できるよう工夫されている。ぜひ会場で始興の仔細な部分を見つめた観察眼を体感してほしい。

展示風景より、渡辺始興筆《鳥類真写図巻》(18世紀、江戸時代)

 ほかにも茶杓や筆架、香合、盆、硯箱など、花と鳥をモチーフにした多彩な茶道具の数々が本展では並び、茶席の細部に込められた美意識の数々に思いを馳せることができる。

展示風景より、左が《鴛鴦香合 覚々斎在判》(19世紀、江戸時代)

 最後となる展示室7には、重要文化財である室町時代の《日月松鶴図屏風》(16世紀、室町時代)や、円山応挙筆《梅花双鶴図襖》(18世紀、江戸時代)、沈南蘋筆《花鳥動物図》(18世紀、清時代)といった絵画の銘品が並ぶ。その繊細な筆遣いを堪能してほしい。

展示風景より、《日月松鶴図屏風》(16世紀、室町時代)

 花と鳥という、誰もが親しみをもてる観点から近世日本の美意識と技巧の数々を学ぶことができる展覧会。日本美術に興味を持ち始めた人の入門としてもおすすめしたい展示となっている。