2025.4.25

日比谷公園でアートを楽しもう。「Hibiya Art Park 2025」が開幕

日比谷公園内で「Hibiya Art Park 2025 -訪れるたび、アートと出会う1ヶ月‐」が始まった。会期は5月25日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

久保寛子の《ハイヌウェレの彫像》
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 2022年に開園120年を迎えた、日本初の洋風公園である日比谷公園。ここで東京都主催のアートイベント「Hibiya Art Park 2025 -訪れるたび、アートと出会う1ヶ月‐」が始まった。

 東京都は、四季折々の花と光の演出によって公園の新たな楽しみ方を提案する「花と光のムーブメント」企画を実施中。昨年、大巻伸嗣、永山祐子、細井美裕が参加するアートイベント「Playground Becomes Dark Slowly」が日比谷公園で開催され、大きな話題を集めた。今回開催される「Hibiya Art Park 2025」は、その内容や期間をさらに拡大したものだ。

参加作家らと、アンバサダーを務める山本見月(中央)

 インスタレーションを中心とした第1期「Transformed Composition -組み合わせと見立てで遊ぶ-」(4月25日〜5月11日)と、パフォーミングアーツに焦点を当てた第2期「“Play”ing Catch -集まり方の練習- 」(5月17日〜25日)という2会期にわけて開催される。ここでは1期についてお届けしたい。

 故・山峰潤也がキュレーションを手がけた第1期の参加作家は、久保寛子小金沢健人+西畠清順、ジャコモ・ザガネッリ、宮崎啓太の4組。ある物を別の物になぞらえて新たな意味や価値を生み出す日本の伝統的な表現手法「見立て」に焦点を当てながら、5点のパブリック・アートと日比谷公園の自然や歴史との組み合わせによる体験を提供する。

 第一花壇では、シュロを中心とした直径約28メートルの空間に、小金沢健人+西畠清順が新たな場所を立ち上げた。《Forest for Momentum(流れを生む森)》は、世界中から集まった植物たちが森をつくり、普段とは異なる自然な姿を提示するもの。夜間にはファウンドネオンを用いたオブジェなどによる光の演出も行われる。

小金沢健人+西畠清順の《Forest for Momentum(流れを生む森)》

 心字池で作品を見せるのは久保寛子だ。《やさしい手》は、弥勒菩薩や古代エジプトのヌト神、赤子の手などを参考にした手の造形に、ブルーシートの皮膚を纏わせたもの。高さは約4メートルと巨大だが、その重量感をなくすため、水面への接触点が極限まで小さく設計されている。日本人にとっては災害時や工事現場で見る機会が多いブルーシートに覆われた巨大な手は、天から人々に手を差し伸べるようだ。

久保寛子の《やさしい手》

 久保は草地広場でもう一つの作品《ハイヌウェレの彫像》を見せる。縄文土偶をモチーフにした本作は仰向けに寝そべった女性型の鉄の構造体に約800kgの土を塗ったもの。縄文土偶はほとんどが女性型をしており、多くがその一部が意図的に破損された状態で見つかっているという。理由は諸説あるものの、久保は「壊した土偶の断片を土に撒く事で豊穣を願っていた」という説に注目した。

 西畠とコラボレーションした本作の周囲には様々な植物が植えられており、まるで長い年月そこにあったかのように横たわっている。会期中も、日光や風雨の影響を受けて日々変化していく。

久保寛子の《ハイヌウェレの彫像》

 にれのき広場ではジャコモ・ザガネッリによる《Hibiya Ping Pong Platz》を楽しみたい。本作は、公共空間で実際に遊ぶことができる卓球台を設置するという実験的なアートプロジェクト。2022年に東京・墨田区で、ジャコモ・ザガネッリが、灰谷歩、シルヴィア・ピアンティーニとともに立ち上げたプロジェクト《Ping Pong Platz》の発展形の一部であり、2024年には「岡山・森の芸術祭」にて同様の作品が津山市に恒久設置された。

 折り紙のような4台の卓球台が人と人の媒介となり、新たなコミュニケーションを生み出す装置となる。「アートは社会変革のためのツール。すべての人に開かれていることが重視だ」と語る、ザガネッリらしい作品だ。

ジャコモ・ザガネッリの《Hibiya Ping Pong Platz》

 雲形池で作品を展開するのは宮崎啓太だ。《巣の構造》は、雲形池に建つモニュメンタルな《鶴の噴水》にインスピレーションを得た作品。同作は1905年に津田信夫、岡崎雪声によってつくられた。

 鳥が人工物の破片を移動させて自然界で巣をつくるように、使い古された車のパーツなどの金属と、特殊な紙でできた物体と組み合わせ、新たな巣を生み出した。異物を持ち込むことで、本来の場所の意味を問いかける。

宮崎啓太の《巣の構造》

 なおパフォーミングアーツを中心とした第2期では、維新派 屋台村&上映会『透視図』・『トワイライト』、上田久美子+miu+川村美紀子『呼吸にまつわるトレーニングプール -皇居のお堀編- 』、小泉明郎『火を運ぶプロメテウス』、小山田徹『火床』といったプログラムが予定されている。こちらもあわせてチェックしてほしい。