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2025.4.19

「超 国宝-祈りのかがやき-」(奈良国立博物館)開幕。これまでにない国宝展

奈良国立博物館で、同館初となる大規模国宝展「奈良国立博物館開館130年記念特別展 超 国宝-祈りのかがやき-」が開幕した。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、国宝《観音菩薩立像(百済観音)》(飛鳥時代)
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 奈良国立博物館(以下、奈良博)は1895年4月29日に開館(当時は帝国奈良博物館)して、今年130周年を迎える。日本で2番目に歴史の長い国立博物館だ。この節目に開幕したのが、同館初の大規模な国宝展「奈良国立博物館開館130年記念特別展 超 国宝-祈りのかがやき-」だ。

 国宝のみで構成された展覧会といえば、2022年に東京国立博物館で開催された特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」を記憶している人も多いだろう。同展は東博創立150年の節目を記念するものとして開催され、東博史上初めて同館所蔵の国宝89件を一挙に公開。入場者数は予約制でありながら35万1153人を記録している

 多くの人々を魅了する「国宝」という言葉。ただし本展タイトルは「超 国宝」だ。京博の井上洋一館長はこのタイトルについて、「とびきり優れた宝」という意味とともに、「時代を超え先人たちから伝えられた祈りやこの国の文化を継承する人々の心もまた、かけがえのない国の宝である」という思いが込められていると話す。

旧帝国奈良博物館本館(現在は仏像館)

 会場に並ぶのは国宝約110件を含む143件の仏教・神道美術だ。奈良博の国宝所蔵件数が13件であることを踏まえると、この110件という数字の大さがよくわかるだろう。出品作品・資料は、国宝を含む文化財のうち、時代を超えて未来に伝えるべき文化遺産であり、かつ「奈良」と「奈良博」の歴史上、とくに意義の深いものが選定基準となった。

 展示は「南都の大寺」「奈良博誕生」「釈迦を慕う」「華麗なる仏の世界」「神々の至宝」「写経の美と名僧の墨蹟」「未来への祈り」の全7章構成(一部展示替えあり)。

南都の大寺

 展示冒頭を飾るのは、飛鳥時代の仏教彫刻を代表する《観音菩薩立像(百済観音)》だ。本作はクスノキの一木造りによるもので、すらりと伸びた長身の姿が神々しさを強調するかのようだ。本展では、その光背や支柱も間近で見ることができるので、ディテールに注目してほしい。

展示風景より、国宝《観音菩薩立像(百済観音)》(飛鳥時代)

 《重源上人坐像》(鎌倉時代)は、南都焼き討ちの後に東大寺を再興した重源の像。深く刻まれたしわや前屈みの姿は非常に写実的であり、運慶作という説が有力視されている。

展示風景より、国宝《重源上人坐像》(鎌倉時代)

 《天寿国繍帳》(原本:飛鳥時代、模本部分:鎌倉時代)は、聖徳太子の没後に妃であった橘大郎女の願いを受けて推古天皇がつくらせた刺繍の帳の残欠。死後の世界(天寿国)で聖徳太子が安らかに過ごせるよう、祈りが込められた。

展示風景より、国宝《天寿国繍帳》(原本:飛鳥時代、模本部分:鎌倉時代)

奈良博誕生

 第二章は、 奈良博誕生に大きく関わった奈良博覧会に関係する作品・資料を展覧するセクションとして興味深い。

展示風景より

 奈良では1875年から18回にわたり東大寺で「奈良博覧会」が開かれ、これが東博、そして奈良博の開館へとつながった。ここでは、奈良博覧会で主要作品となっていたとされる《八雷神面》(室町〜江戸時代)をはじめ、片山東熊が設計した帝国奈良博物館本館(現・仏像館)の貴重な図面、奈良博覧会の巨大な立札などが並ぶ。

展示風景より、《八雷神面》(室町〜江戸時代)
展示風景より、《奈良博覧会立札》(明治時代)
展示風景より、重要文化財《内匠寮奈良博物館建築工事図面》(1890〜94)
展示風景より、2025年に国宝に指定された東博所蔵の《伎楽面 呉広》(飛鳥時代)

釈迦を慕う

 第三章「釈迦を慕う」では、古代刺繍工芸の最高傑作とされる《刺繍 釈迦如来説法図》(中国・唐または鎌倉時代)に目を凝らしたい。堂々とした釈迦如来を中心に、多数の尊像が囲む構図の本作は全面の刺繍が非常に高い精度で縫われている。

展示風景より、国宝《刺繍 釈迦如来説法図》(中国・唐または鎌倉時代)

 また、鑑真がもたらした舎利を奉安する《金亀舎利塔》(鎌倉時代)も見事だ。亀が宝塔を支える形は、鑑真が海に落とした舎利を金の亀が救ったという伝承とつながるもの。舎利の容器は唐草の透かし彫り越しに露出しており、それによって荘厳さを増している。

展示風景より、国宝《金亀舎利塔》(鎌倉時代)

美麗なる仏の世界

 第四章「美麗なる仏の世界」の白眉は、運慶の現存する最古の作例《大日如来坐像》(1176)だろう。若き運慶の卓越した造形力に息を呑む作品だ。

展示風景より、運慶作の国宝《大日如来坐像》(1176)

 また《辟邪絵》(平安時代)は鬼とたたかう神々を勇ましくかつユーモラスに描いた平安絵巻の傑作。一見神とは見えない異形の姿が、高い画力によって表現されている。

展示風景より、国宝《辟邪絵》(平安時代)

 《両界曼茶羅(子島曼茶羅)》(平安時代)にも着目してほしい。両界曼茶羅とは、二幅一対で密教儀礼に用いられた曼荼羅。本作のように、綾地に金銀泥で描かれた両界曼茶羅は稀だという。

展示風景より、国宝《両界曼茶羅(子島曼茶羅)》(平安時代)

神々の至宝

 第五章「神々の至宝」では、百済王が倭王のためにつくったとされる《七支刀》(古墳時代)が目玉。異形の鉄剣は、百の兵を退ける威力を持つとされている。

展示風景より、国宝《七支刀》(古墳時代)

 春日大社の本殿に奉納されていた太刀《金地螺鈿毛抜形太刀》(平安時代)は、鞘は漆地に金粉を蒔き詰め、竹林で猫が雀を追う様子を螺鈿で表したもの。金具に施された彫金はほぼ純金製だ。

展示風景より、国宝《金地螺鈿毛抜形太刀》(平安時代)
展示風景より、国宝《唐鞍》(鎌倉時代)
展示風景より、国宝《春日権現験記絵 巻第十八》(鎌倉時代)

写経の美と名僧の墨蹟

 第六章「写経の美と名僧の墨蹟」には、日本を代表する古写経が並ぶ。例えば《金光明最勝王経(国分寺経)》(奈良時代)は、聖武天皇が各国に国分寺を建立し、その塔に金字の金光明最勝王経を安置することを命じたその国分寺経であり、聖武天皇の仏教政策を直接伝えるものとして重要な存在だ。

展示風景より、国宝《金光明最勝王経(国分寺経)》(奈良時代)

未来への祈り

 展示の最後は、真っ白な空間で《菩薩半跏像(伝如意輪観音)》(平安時代)が静かに鑑賞者を迎えてくれる。中国・唐代の檀像彫刻に由来する緻密さと、奈良時代の乾漆造の仏像から受け継いだ着衣の質感が融合した傑作をゆっくり鑑賞してほしい。

展示風景より、国宝《菩薩半跏像(伝如意輪観音)》(平安時代)
展示風景より、国宝《鞍馬寺経塚出土品》(平安時代)

 豪華絢爛な国宝の共演という側面のみならず、奈良博の歴史をたどりながら文化財を顕彰・継承することの重要性を伝える本展。2ヶ月という会期で巡回もないため、同会期開催の京都国立博物館とあわせて訪れてみてほしい。