2025.7.24

丹下健三設計の名建築。解体予定の「旧香川県立体育館」、民間による再生案が始動

老朽化と耐震性の問題を理由に解体が決定された旧香川県立体育館について、民間主導による保存・再生活用を目指す正式な意向表明が行われた。

旧香川県立体育館 画像提供=すべて旧香川県立体育館再生委員会
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 戦後日本を代表する建築家・丹下健三の設計による「旧香川県立体育館」。その保存および利活用を目指す「旧香川県立体育館再生委員会」が、7月18日付で同建築の買取等に関する正式な意向表明書を香川県教育委員会および香川県知事に提出したと発表した。これを受けて同委員会は7月23日、高松市内のホテルにて記者会見を開き、これまでの経緯や今後の事業計画について説明を行った。

 旧香川県立体育館は、東京オリンピックが開催された1964年に竣工した体育館である。和船を思わせる形状から、長年「船の体育館」とも呼ばれている。2014年9月末から耐震改修工事の入札不調により施設の利用が中止され、休館に至った。

 7月23日の記者会見に登壇したのは、委員会委員長を務める建築家・長田慶太、副委員長の経営戦略コンサルタント・上杉昌史、理事の建築家・青木茂の3名。会見では、老朽化と耐震性の問題を理由に2023年に解体が決定された旧香川県立体育館について、民間主導による全額自己資金での保存・再生案が示された。

 長田は、2014年の時点で耐震改修のための入札が中止され、以降長らく活用策が示されてこなかった経緯に触れたうえで、「2023年に発表された解体費用が約10億円に上ることを知り、この建築の文化的・歴史的価値を改めて認識した」と語った。

 「仮に解体費用が3億円程度で済むのであれば、建物の運命として受け入れることもひとつの考え方だった。しかし10億円という金額は、むしろこの建築がいまだ文化資産としての役割を持ち得ることの証左ではないかと感じた」と述べ、保存の可能性を模索し始めた経緯を明かした。

 そのうえで、耐震改修や再活用を県が主導するのではなく、民間主導による再生を目指すことが現実的で持続可能な選択肢であるとし、地元企業や有識者との協議を経て現在のチーム形成に至ったと説明した。

 続いて登壇した上杉は、再生案の柱として「民間が全額自己資金で耐震改修・保存を行い、宿泊施設等として利活用する」こと、「土地を香川県から購入し、建物を無償譲渡または低額譲渡で取得する」ことの2点を挙げた。

 上杉は「たんに『保存』するだけでは、維持管理費がかさみ、赤字が常態化する可能性が高い」と指摘。そのため、建物の構造的・意匠的価値を残しつつ、観光や宿泊といった用途によって収益を生み出す『再生』が不可欠であるとの認識を示した。

 また、再生にかかる耐震改修費については、2014年当時の見積もりである18億円から、現在では約半額〜3分の1程度に圧縮できるとの試算を紹介。これは、民間建築としての基準適用による耐震性能の緩和や、3次元構造解析技術の進展による補強最適化の可能性によるものであるという。

 再生委員会が検討する活用案は主に2つある。ひとつ目は、宿泊機能と大規模なブックラウンジを組み合わせた「ブックラウンジホテル」案。2階以下に宿泊施設、3階以上の空間には書籍に囲まれたラウンジやアートスペースを設ける計画である。

 2つ目は、一棟全体を宿泊用に転用する「一棟貸しホテル」案。中庭に光が差し込むよう屋根の一部を開口するなど、建築的にも新たな魅力を創出する方針が示された。いずれの案においても、年間約1億円の営業利益が見込まれており、民間事業としても継続性があると説明された。

 また、初期投資額は30〜60億円、年間経済波及効果は3〜7億円と試算。短期的な収益性のみならず、建築文化資産としての香川県のブランド価値向上という長期的視点の重要性も強調された。

 上杉はさらに、文化庁における建築文化の保存支援の動きにも言及。これまで「保存」に限られていた支援が、「再生」も対象とする方向で動いており、現在設置されている「建築文化ワーキンググループ」との連携も視野に入れていると述べた。このように、技術面・制度面の両側から、民間主導による再生の実現可能性が高まりつつあることを強調した。

 現在、香川県は2027年度までに解体工事を完了させる方針で準備を進めているとされるが、再生委員会側も同時期までに耐震補強工事を完了させ、県民の安全性を確保する計画を立てている。

 会見の最後には、「解体判断の前提条件が変わったことを認識し、財政的負担なく文化資産を未来に遺す選択肢として、再生活用の可能性を検討してほしい」と上杉は改めて訴えた。また、「実績ある専門家が揃った我々に委ねていただければ、県の負担なく確実に再生を実現できる」との自信も示した。今後、香川県側がこの提案にどう応じるかが注目される。