2025.6.18

アーティゾン美術館「ジャム・セッション」第6弾、山城知佳子と志賀理江子が参加

アーティゾン美術館で、第6回の「ジャム・セッション」展が開催。本展では、沖縄と東北、それぞれの地に根ざしたアーティスト・山城知佳子と志賀理江子が、石橋財団が所蔵する近現代美術のコレクションと新たな対話を生み出す。会期は10月11日〜2026年1月12日。

山城知佳子 発表予定の新作より(タイトル未定) ⓒ Chikako Yamashiro. Courtesy of the artist
前へ
次へ

 アーティゾン美術館で、「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着」展が開催される。会期は10月11日〜2026年1月12日。

 本展は、同館が継続して取り組む「ジャム・セッション」シリーズの第6回目にあたり、石橋財団が所蔵する近現代美術のコレクションと、現代を代表するアーティストとの共演を通じて、美術の新たな可能性を探る試みだ。

志賀理江子 褜がらみで生まれた 2025 © Lieko Shiga. Courtesy of the artist

 今回のセッションには、沖縄を拠点に戦争や植民地支配の歴史と身体的に向き合ってきた映像作家・山城知佳子と、東北・宮城県を拠点に写真を軸とした独自の物語世界を展開してきた志賀理江子が参加する。両者は、それぞれの土地に根ざした歴史や記憶と深く関わりながら、現代社会における分断や忘却に批評的な視線を向けてきた。

 展覧会タイトル「漂着」には、偶然と必然、外部からの流入と内部の応答という二重の意味が込められている。異なる背景を持つ2人の作家が、それぞれの土地で培ってきた視点を通じて、離れた場所や他者の記憶と新たな接続を試みる。本展では、そうした軌跡が石橋財団のコレクション作品と交差し、「記憶」「災害」「移動」「再生」などのテーマが、空間全体を通じて展開される。展示空間そのものが「漂着地」として機能し、時間や場所、身体、記憶が交錯する体験が創出される。

山城知佳子 発表予定の新作より(タイトル未定) ⓒ Chikako Yamashiro. Courtesy of the artist

 注目すべき見どころのひとつは、両作家による本展のための新作である。山城は、沖縄、パラオ、東京大空襲の記憶を映像で結び、語りや歌、祈りを交えた映像インスタレーションを展開。仮設小屋のような舞台空間を通じて、記憶が土地や時代を越えて共鳴し合う場が生み出される。

 いっぽうの志賀は、宮城県北部で多義的に使われる言葉「なぬもかぬも」を手がかりに、東北地方における海と陸の関係性や、震災後の物流・復興を巡る物語を写真で描く。全長約4メートルに及ぶ写真絵巻が会場全体を横断し、観る者の身体感覚を巻き込む没入型の展示空間を構築する。

志賀理江子 行ってはいけない、戻ってこい 2025 © Lieko Shiga. Courtesy of the artist

 両作家はこれまでのテーマをさらに深めると同時に、石橋財団のコレクションと対話することで、作品に新たな文脈を付与する。本展は、ポストトゥルースの時代において、私たちが過去とどう向き合い、いかに語り継ぐかを問い直す契機となるだろう。中心と周縁、事実と記憶、芸術と現実が交錯する場として、美術館の新たな可能性を提示する企画として注目される。