それでも壊す? 丹下健三の名作「旧香川県立体育館」保存計画の行方はいかに
モダニズムの巨匠・丹下健三が国立代々木競技場と同じくして生み出した旧香川県立体育館。建築史においても重要なこの建築が、解体の危機に瀕している。

時代を象徴する建築、10億かけて「解体」?
香川県高松市の街中を車で走っていると、遠くにある種“異様”とも思える巨大な建築が現れる。丹下健三(1913〜2005)が設計した旧香川県立体育館だ。
この建築は、丹下の代表作である国立代々木競技場(重要文化財)と同じ1964年に竣工。国立代々木競技場のスタディから生み出された、いわば兄弟建築だ。大きく反り返ったデザインは「和船」を思わせることから、長年「船の体育館」と呼ばれ親しまれてきた。またこの時代では珍しいプレストレス工法が採用されており、建築史としても貴重な作例だ。
前川國男に師事し、近代建築の保存に詳しい松隈洋(神奈川大学教授)は、同建築についてこう強調する。「構造設計を担当したのが、レーモンドの代表作『群馬音楽センター』(1961年)の構造を手がけた京都大学出身の岡本剛であり、丹下の代々木とはまったく異なる世界的にも注目される構造体により、あのような造形が生み出されたことは特筆すべき歴史的な価値を持っている。そして何よりも、手描きの図面と手回し計算機による手作業で、あのような建築を設計した当時の技術者たちの思いと、それを受けて、地元の職人たちによる精巧なコンクリート打放しの見事の造形は、戦後復興を経た1960年代という時代を象徴する建築として、香川県庁舎とは別の意味を持っている」。

しかし同施設は、2014年9月末から耐震改修工事の入札不調により利用が中止された。県はその後、2023年に解体を決定。今年8月7日に、解体の入札公告を出した(予定価格は9億2041万6200円)。しかしこの解体は、その後の土地活用計画などが示されておらず、「解体そのものが目的」とでも言わんばかりの状態だ。
いっぽう、この近代建築の名作を保存し、新たな活用法を見出そうとする動きは民間から出ている。それが「旧香川県立体育館再生委員会」(以下、再生委員会)だ。再生委員会では、老朽化と耐震性の問題を理由に2023年に解体が決定された旧香川県立体育館を、民間主導による全額自己資金での保存・再生案を示す。