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2025.7.7

「藤田嗣治 絵画と写真」(東京ステーションギャラリー)開幕レポート。写真がつくったフジタ、写真を使ったフジタ

東京ステーションギャラリーで藤田嗣治を「写真」を通して見つめ直す展覧会「藤田嗣治 絵画と写真」が開幕した。会期は8月31日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影(クレジットのないもの)=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、ドラ・カルムス(マダム・ドラ)《猫を肩にのせる藤田嗣治》(1927/2025)東京藝術大学蔵
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 東京ステーションギャラリー藤田嗣治(1886〜1968)を「写真」を通して見つめ直す展覧会「藤田嗣治 絵画と写真」が開幕した。会期は8月31日まで。担当は同館学芸員の若山満大。

 乳白色の下地に描いた絵画で知られる、エコール・ド・パリを代表する画家・藤田嗣治。本展はこの藤田の芸術を「写真」をキーワードに再考するもので、藤田と写真の関係を「絵画と写真につくられた画家」「写真がつくる絵画」「画家がつくる写真」の3つの視点から紐解いてゆく。

展示風景より、《人形たちと藤田》(1954) 東京藝術大学

 プロローグ「眼の時代」は、藤田が渡仏した20世紀前半のパリにおいて、写真や映画が新たな表現手段として美術界に浸透した時代背景をとりあげる。本章ではベレニス・アボットが撮影した藤田の写真をはじめ、マン・レイ、アンドレ・ケルテス、ウジェーヌ・アジェといった、当時のパリで活躍した写真家たちの作品が並ぶ。

展示風景より、左からマン・レイ《セルフポートレート》(撮影年不明)、ベレニス・アボット《藤田嗣治、パリ、1927年》ともに日本大学芸術学部蔵
展示風景より、左がウジェーヌ・アジェ《サンリュスティーク通り、1922年3月》日本大学芸術学部

 第1章「絵画と写真につくられた画家」では、藤田が絵画と写真によって自身をブランディングしていたことを、自画像やポートレイトの展示によって紹介する。藤田といえば、誰もがおかっぱの頭と丸眼鏡というイメージを強烈に思い浮かべるだろう。藤田はこのような自身の印象的なスタイルを強調するように、積極的にポートレイトの被写体になり、その姿を周囲に印象づけていった。

第1章「絵画と写真につくられた画家」展示風景 ©Hayato Wakabayashi

 会場では、ボリス・リプニツキ、アンセル・アダムス、ベレニス・アボットらが撮影した藤田のポートレイトとともに、自画像も展示。異邦人の芸術家としてパリで生き抜くために、戦略的に自身のイメージをアピールしていた藤田のしたたかさが伝わってくる。

展示風景より、撮影者不明の藤田のポートレイト 東京藝術大学蔵

 第2章「写真がつくる絵画」では、絵画を制作する際に積極的に写真を活用した藤田の姿にその絵画から迫る。世界各国を旅し、それぞれの土地の衣服、建築、風景などを絵画のモチーフにした藤田。藤田はこれらを撮影し、またキャンバスの上でそれら写真を組み合わせることで画面をつくりあげていった。

第2章「写真がつくる絵画」展示風景 ©Hayato Wakabayashi

 例えば《北平の力士》(1935)には、藤田が旧満州を旅したときに撮影した写真と一致する部分が数多く見られる。画題は「北平(北京)」となっているが、必ずしも北京で写されたものではないものが組み合わされており、資料を巧みに組み合わせていく藤田の絵画制作の手法の一端を知ることができる。

第2章「写真がつくる絵画」展示風景 ©Hayato Wakabayashi

 第3章「画家がつくる写真」では、実際に藤田が各国各地で撮影した写真を展示している。とくに藤田が晩年を過ごしたアトリエに保管されていたという数々の記録写真は、被写体のみならず、構図や陰影の意識など、スナップフォトとして強度を持っているものも多い。

第3章「画家がつくる写真」展示風景 ©Hayato Wakabayashi

 また、東京藝術大学に保管されている藤田のカラー写真も魅力的だ。街にあふれる色彩をとらえ、巧みな構図で写し取った作品群は、木村伊兵衛をはじめ様々な写真家からも評価された。

展示風景より、木村伊兵衛《パリ、藤田嗣治》(1954/1984頃のプリント)横浜美術館蔵

 エピローグ「眼の記憶/眼の追憶」は、戦後、戦争協力への批判にさらされ、パリへと移った晩年の藤田にスポットを当てる。阿部徹雄、清川泰次らの写真に映る藤田は、穏やかな晩年の姿を湛えている。家族との関係性が垣間見える写真も多く、晩年の藤田が自身を家族という存在から見つめ、ときに絵画のモチーフにしていった様子もうかがえる。

展示風景より、清川泰次「パリ、藤田嗣治のアトリエにて」シリーズ(1954) 世田谷美術館蔵

 本展を見ると、誰もが知るところの画家・藤田嗣治という像が、写真なくしては成立していなかったかのような印象さえ受ける。写真という20世紀の文化を大きく変えたメディアとひとりの画家との関わりを真剣に見つめ、研究の新機軸を示す展覧会と言えるだろう。

展示風景より、藤田の遺品のメガネとメガネケース シャーマン・コレクション(河村泳静氏所蔵/伊達市教育委員会寄託)