2025.4.17

「第18回shiseido art egg」展(資生堂ギャラリー)レポート。第2期はすずえり個展「Any girl can be glamorous」

資生堂ギャラリーで「第18回 shiseido art egg」展が開催中。この公募プログラムに入選した大東忍、すずえり、平田尚也の3名のうち、第2期となるすずえりの個展がスタートした。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 東京・銀座の資生堂ギャラリーで「第18回 shiseido art egg」展が開催中。この公募プログラムに入選した大東忍、すずえり(鈴木英倫子)、平田尚也の3名のうち、第2期のすずえりによる個展「Any girl can be glamorous」がスタートした。会期は5月18日まで。

 すずえりは、ピアノや自作の電子回路などを連動させた装置を用いてインスタレーションや即興演奏を手がけ、音やそれを媒介する通信技術の表象に物語性を見出そうとする作家だ。同展では、Wi-FiやGPSといった現代の通信技術の基礎を生み出した発明家でハリウッド女優のヘディ・ラマー(1914〜2000)の生涯にフォーカス。「通信」というテーマを通じて、社会の在り方や女性の生き方について考えるものとなる。

展示風景より、《メルクリウス - ヘディ・ラマーの場合》(2022-)

 作家によると、展示空間は「ヘディ・ラマーの人生の部屋」と「ヘディ・ラマーの発明の部屋」の大きく2つに分かれている。メインスペースで展開される「ヘディ・ラマーの人生の部屋」には、高い天井空間を生かして数多くの電球が吊り下げられている。これは、もっとも古い通信手段である可視光通信を用いたインスタレーション《メルクリウス - ヘディ・ラマーの場合》であり、鑑賞者は太陽光電池でつくられたスピーカーを電球の光にかざすことによって、可視光線に重ねられた音声を聞くことができるという仕組みだ。ここで流れる音声は、ラマーが出演していた映画のセリフや歌声、または発明仲間であった作曲家ジョージ・アンタイルのものであり、発される音声信号は電球によってすべて異なっている。「通信」という技術を介して、ヘディ・ラマーの生き方に触れることができるというわけだ。

展示風景より、《メルクリウス - ヘディ・ラマーの場合》(2022-)
展示風景より、《メルクリウス - ヘディ・ラマーの場合》(2022-)

 また、同スペースには、ラマーが特許を取得した暗号通信システムのほか、信号機、さらにはコーラ・タブレットといった様々な発明品の再現模型が展示されている。残された資料の情報を生成AIに読み込ませ、3Dプリンタで出力されたこれらの品々からは、ラマーの発明に対する意欲的な姿勢も見受けられる。

展示風景より、《暗号通信システムとコーラ・タブレット》(2025)

 同フロアの奥のスペースは「ヘディ・ラマーの発明の部屋」。ここでは、通信技術と演奏についての表現を模索していたすずえりと、当時「自動ピアノを応用した魚雷誘導暗号装置」をアンタイルとともに発明し、特許を取得したラマーがリンクするようなインスタレーションが上階と下階にわたって展示されている。

 上階に設置されたトイピアノと、吹き抜けの壁面に投影されたラマーの詩による《逆説の十戒》は、詩の英文のなかに見られる“C(ド)”や“D(レ)”といった音名に対応してトイピアノが音を鳴らし、Bluetoothで接続された下階の《ピアノは魚雷にのらない》が演奏されるといった仕組みとなっている。この作品の基盤も、彼女が発明したWi-Fiの技術を基盤としたものだ。

展示風景より、《逆説の十戒》
展示風景より、《逆説の十戒》
展示風景より、《ピアノは魚雷にのらない》(2025)。ピアノの配線は、ラマーが残したスケッチをもととしている。

 今回のように、他者の生涯に焦点を当てるアプローチは初の試みだというすずえり。へディ・ラマーを取り上げた理由や彼女の生き方に対してどのような感情を抱いたのかという編集部の質問に対して、作家は次のように述べた。「発明家としての一面を持つへディ・ラマーは、非常におもしろい試みに取り組んできたのにもかかわらず、(美人でハリウッド女優であったということもあり)そちらの功績は無視されてきた。女性ということが理由で、自分がやってきたことを無視される経験に共感するいっぽうで、歳を重ねてからは老化に怯え、過剰に整形を繰り返すといった不思議な点もある。今回の個展のタイトルからも、彼女がどんな目にあってきたかがわかるだろう」。

 通信技術、奏法、そしてひとりの女性としての生き方。へディ・ラマーの持つ多様な面を丁寧に咀嚼し、徹底した技術の再解釈とナラティブに裏打ちされた同展では、すずえりとへディ・ラマーの時代を超えたセッションが展開されている。

展示風景より、《彼女の絵を探している》(2025)
展示風景より。本展のタイトルにもなっている「Any girl can be glamorous」は、ヘディ・ラマーによる言葉“Any girl can be glamorous.All you have to do is stand still and look stupid.”(誰だって魅力的な女の子になれるの。バカなフリして立ってればいいのよ)という皮肉を込めた表現から引用されたもの