同フロアの奥のスペースは「ヘディ・ラマーの発明の部屋」。ここでは、通信技術と演奏についての表現を模索していたすずえりと、当時「自動ピアノを応用した魚雷誘導暗号装置」をアンタイルとともに発明し、特許を取得したラマーがリンクするようなインスタレーションが上階と下階にわたって展示されている。
上階に設置されたトイピアノと、吹き抜けの壁面に投影されたラマーの詩による《逆説の十戒》は、詩の英文のなかに見られる“C(ド)”や“D(レ)”といった音名に対応してトイピアノが音を鳴らし、Bluetoothで接続された下階の《ピアノは魚雷にのらない》が演奏されるといった仕組みとなっている。この作品の基盤も、彼女が発明したWi-Fiの技術を基盤としたものだ。
展示風景より、《逆説の十戒》 展示風景より、《逆説の十戒》 展示風景より、《ピアノは魚雷にのらない》(2025)。ピアノの配線は、ラマーが残したスケッチをもととしている。 今回のように、他者の生涯に焦点を当てるアプローチは初の試みだというすずえり。へディ・ラマーを取り上げた理由や彼女の生き方に対してどのような感情を抱いたのかという編集部の質問に対して、作家は次のように述べた。「発明家としての一面を持つへディ・ラマーは、非常におもしろい試みに取り組んできたのにもかかわらず、(美人でハリウッド女優であったということもあり)そちらの功績は無視されてきた。女性ということが理由で、自分がやってきたことを無視される経験に共感するいっぽうで、歳を重ねてからは老化に怯え、過剰に整形を繰り返すといった不思議な点もある。今回の個展のタイトルからも、彼女がどんな目にあってきたかがわかるだろう」。
通信技術、奏法、そしてひとりの女性としての生き方。へディ・ラマーの持つ多様な面を丁寧に咀嚼し、徹底した技術の再解釈とナラティブに裏打ちされた同展では、すずえりとへディ・ラマーの時代を超えたセッションが展開されている。
展示風景より、《彼女の絵を探している》(2025) 展示風景より。本展のタイトルにもなっている「Any girl can be glamorous」は、ヘディ・ラマーによる言葉“Any girl can be glamorous.All you have to do is stand still and look stupid.”(誰だって魅力的な女の子になれるの。バカなフリして立ってればいいのよ)という皮肉を込めた表現から引用されたもの