2024.10.22

モンクレール、「The City of Genius」で見せたラグジュアリーの可能性

1952年創業のイタリアのラグジュアリーブランド「モンクレール」が、上海で1日限りの巨大イベント「The City of Genius」を開催。10のユニークなプログラムを展開し、新たな可能性を提示した。

文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集部)

The City of Genius by Hiroshi Fujiwara
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 アジアでもっともダイナミックな都市のひとつである上海。この地を1952年創業のモンクレールがさらに熱狂させた。それが、10月19日に行われた没入型の巨大イベント「The City of Genius(シティ・オブ・ジーニアス)」だ。

  会場となったのは、上海の象徴である黄浦江を目の前にのぞむ、3万平米もの元造船所。モンクレールはこの場所を、ファッションとカルチャーが融合するひとつのメトロポリスへと変貌させた。

The City of Genius by Donald Glover

 モンクレールの会長兼CEOであるレモ・ルッフィーニはこう語る。「The City of Geniusは、異なる世界や文化的背景が真の“CO-CREATION”によって互いを刺激し合い、そのバウンダリーを超える時に真のクリエイティビティが発揮されるという究極のエクスプレッション。上海の活気あふれるエネルギーに後押しされ、私たち全員のなかに宿る幼少期のジーニアス(天才)だった自分に導かれ、国内外のクリエイティブな才能が結集する場所となりました。モンクレール ジーニアスは毎年クリエイティビティの力を示し続け、アイデアを現実に変え、人々をコミュニティに導き、ラグジュアリーの新たな可能性へと導いています」 。

 ルッフィーニが語る“CO-CREATION”という言葉のもと、Edward Enninful (OBE)(エドワード・エニンフル) 、FRGMT by Hiroshi Fujiwara(フラグメント by 藤原ヒロシ)、Gilga Farm by Donald Glover(ギルガファーム by ドナルド・グローバー)、LuLu Li(ルル・リー) 、Mercedes-Benz by Nigo(メルセデス・ベンツ by Nigo)、Palm Angels(パーム・エンジェルス) 、A$AP Rocky (エイサップ・ロッキー) 、Willow Smith(ウィロー・スミス) 、Rick Owens(リック・オウエンス)、そしてJil Sander(ジル サンダー)がモンクレールとともに特別なショウケースを展開。「The City of Genius」を実現させた。その内容を紹介しよう。

The City of Genius

 ファッション編集者でありスタイリストであるエドワード・エニンフルが見せたのは、3つのシーンからなる近未来的な世界。砂漠から氷山まで、極限の状況が映画のセットのように出現し、そこにオールブラックの10種類のルックをまとった人物たちが象徴的な姿を見せた。

THE CITY OF GENIUS by EDWARD ENNINFUL
THE CITY OF GENIUS by EDWARD ENNINFUL

 藤原ヒロシによるプレゼンテーションは、今回の「The City of Genius」でもっとも静謐な空間として強い存在感を示した。イギリスの彫刻家リチャード・ウィルソンとのコラボレーションによって生み出された「Looking Glass, 2024」と題されたミニマルな空間は、濃く黒い液体で満たされ、天井から吊るされたルックを鏡のように反射させる。 “still waters running deep(深い川は静かに流れる)”をテーマにしたMoncler x FRGMT(モンクレール × フラグメント)の世界観が見事に表現されたと言えるだろう。

藤原ヒロシ
The City of Genius by Hiroshi Fujiwara

 アーティストとのコラボレーションとしては、ルル・リーも素晴らしい作品を見せてくれた。鏡張りの部屋の中で、無限に広がっていくコレクション。それは、光、反射、知覚を探求し、AIピクセルからイマジネーションを具現化したフィジカルで着用可能なものへと至る、ルル・リーのクリエイティブな旅を想起させるものだ。Moncler x Lulu Li(モンクレール × ルル・リー)のプロジェクトは、誇張されたボリュームとミニマルな禅のリファレンスからインスピレーションを得ているという。

The City of Genius by Lulu Li
The City of Genius by Lulu Li

 ルーシー&ルーク・メイヤーによるJil Sanderは、「無限のショウ」というコンセプトのもと、清らかで光り輝く円形の空間の壁を360度のスクリーンで覆い、そこに自然の美しさを表現した映像を映し出した。自然からインスピレーションを受けた、丸く柔らかなシルエットとボリュームが強いインパクトを与えるコレクションは、2つのブランドの完璧な融合を示すものとなった。

The City of Genius by Jil Sander
ルーシー&ルーク・メイヤー

 このほかThe City of Geniusでは、“CO-CREATION”されたアパレルコレクションと「Gクラス」の2つの新しい解釈を披露したMercedes-Benz and Nigo、ドナルド・グローバーのギルガファームからインスピレーションを得たファームハウス、映画のようなサーキットを出現させたPalm Angels、山のDNAにインスピレーションを得たシルバーのセットと現実の映像とAIが生成した映像の融合を見せたA$AP Rocky、自然の成長により再生された廃墟の村を表現したWillow Smith、そして全天候型スチール製サンクチュアリ(聖域)を備えたリック・オウエンス マウンテン“Refuge”など、多彩なコラボレーションのかたちが提示され、モンクレールというブランドの拡張性の高さ、創造性の無限の可能性を実感させるものとなった。

The City of Genius by Palm Angels
The City of Genius by A$AP Rocky
The City of Genius by Willow Smith
The City of Genius by Rick Owens
リック・オウエンス

 なお、The City of Geniusでは中国を代表するアーティストのシュ・ビン(徐冰)によって構築された独自の言葉が、イベント、ショウ会場、ライブストリーミング、そして付随するキャンペーンの随所に織り込まれ、このメトロポリスのリアリティをより強硬なものにしていたと言えるだろう。 

 このイベントのためにデザインされた音と映像に囲まれ、ヘンリー・ラウによる唯一無二のライブで幕を閉じたThe City of Genius。ここで発表されたモンクレール ジーニアスのコレクションは10月24日発売のMoncler x Lulu Liを皮切りに、25年にかけてが順次発売される予定だ。