30人が選ぶ2025年の展覧会90:Avi(耳で聴く美術館)
数多く開催された2025年の展覧会のなかから、30人のキュレーターや研究者、批評家らにそれぞれ「取り上げるべき」だと思う展覧会を3つ選んでもらった。TikTok、Instagram、Youtubeなどで美術展や作品の紹介動画を発信するアカウント「耳で聴く美術館」を手がけるAviのテキストをお届けする。

「ラーメンどんぶり展」(21_21 DESIGN SIGHT、3月7日〜6月15日)

「ラーメンどんぶり展」は東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催され、展覧会ディレクターにグラフィックデザイナーの佐藤卓さんと、ライターの橋本麻里さんを迎えた展覧会。会場に入るとラーメン屋台のような展示台がいくつも並び、ラーメンどんぶりがくるくると回っている。思わず子供心をくすぐられるような、とてもわかりやすい展示内容。日本全国のラーメン屋さんで使われている器が並べられている展示では、ついつい地元の店の器を探して郷愁に耽ってしまう。また、皆川明さんや糸井重里さんなど多様なジャンルで活躍する人々がデザインした「アーティストラーメンどんぶり」が並ぶ展示は小さな宇宙が広がっているようで、それぞれどんな器を提案しているのか眺めるのがたのしい。もちろん帰りにはラーメンが食べたくなってしまったのだが、ありがたいことに近くのラーメン屋をまとめてくれているMAPもあって、その配慮にも驚いた。
「ゴースト 見えないものが見えるとき」(アーツ前橋、9月20日〜12月21日)

アーツ前橋で開催されていた展覧会のテーマは“ゴースト”だった。至極シンプルで、それでいて人々の興味関心を引きつける魅力的なテーマだ。展覧会では、絵画、彫刻、写真、映像、インスタレーション、さらにはAIやVRなど多様な作品を通して、“ゴースト”というテーマを探る。群馬、前橋を象徴する「赤城山」にまつわる伝承をテーマにした作品などもあり、地元地域の人々も置いてけぼりにしていないのもいい。異形の亡者たちが吊るされ影絵が踊る作品を目にした時には、まさか、ここでクリスチャン・ボルタンスキーの作品に出会えるとは、と思わず心の中で歓喜してしまった。やはり推し作家の作品が出ていると、心が高鳴るのを自分でも感じる。
「150年」(東京都豊島区南池袋の再開発地区、1月18日〜27日)

展覧会「150年」は田中勘太郎さんと布施琳太郎さんのタッグによる共同企画で、「150年『前』や『後』ではなく、ただの時間の量としての『150年』」(展覧会ステートメントより)を複数名の作家たちが扱った催しだ。東池袋の一区画の古い建築群で、全6棟をぶち抜いて仮設通路を貫通させたクレイジーな会場。鑑賞ルートも、民家の二階から二階へと鉄パイプの足場を移動するというような、奇想天外なものだった。会場に入る前に“誓約書”を書く必要があり、過去からの経験でいうと誓約書を書く展示はおもしろい傾向があるのでワクワクしてしまう。過去の住人達がつい先ほどまで住んでいたかのような、洗濯物や家財がある部屋に作品が展示されている。モワッとした空気。時空が歪んでいるような違和感を抱いた。砂が床に敷かれた部屋。スモークがたかれた部屋。部屋と部屋の間を土足で歩き回り、「あら? この部屋さっきも来たな。この人とすれ違うの何回目だろう」と迷い込む。会期はわずか10日間。自分もSNSで展示のことを知り急いでチケットを取った。帰りに近くのカフェでお昼を食べたら、店員さんが「ここ数日、若いお客さんが多くて、何かあるんですか?」と不思議そうに状況を見つめていた。




