2025.6.24

「移動」の力を問い直す。笹岡由梨子個展「ポロニア × キュリー・マジック・ラボ」が大阪で開催中

ポーランド文化の魅力を発信するイベント「Po!land ポ!ランド」の一環として、注目の若手アーティスト・笹岡由梨子による展覧会「ポロニア × キュリー・マジック・ラボ」が大阪市中央公会堂地下1階で開催中。会期は7月5日まで。

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 大阪府出身で、現在は関西と香港を拠点に活動するアーティスト・笹岡由梨子の個展「ポロニア × キュリー・マジック・ラボ ― 移動の力」が、7月5日まで大阪市中央公会堂地下1階にて開催されている。

 本展は、アダム・ミツキェヴィチ・インスティテュート(ポーランドの文化を世界発信する国立機関)による文化イベント「Po!land ポ!ランド」の一環として開催されている。2025年の大阪・関西万博を契機に、ポーランド文化の多様な魅力をより広く紹介することを目的としている。

笹岡由梨子 Photo by S.C.Felix Wong

 科学者であり母であり、そして移民としても生きたマリア・スクウォドフスカ=キュリーの人生を起点に、「移動」「記憶」「身体」「家族」「継承」といったテーマを多層的に探る試みとなっている。

 笹岡は、映像と絵画の接点を探り、CGにはない筆致の痕跡や違和感を通して独自の物語世界を構築してきた作家である。本展でも、ポーランド滞在中に受けた健康診断の映像やイメージをもとに、家族とともに制作した刺繍、木版、映像作品を用い、「関係性の実験室」としてのインスタレーションを展開している。

キュリーP よく喋る人民

 展示のもうひとつの軸となるのが、「ポロニア(Polonia)」という言葉だ。これは、キュリーが命名した元素「ポロニウム(Polonium)」と、世界各地に暮らすポーランド系移民を指す語であり、移動という行為が持つ喪失や分断のみならず、新たなつながりや創造の可能性を象徴するキーワードとして本展に取り入れられている。

肝臓

 キュリーが国境や社会的制約を超えて研究を続けたように、笹岡の作品もまた、移動を通して交差する視点や経験の可視化を試みている。キュレーターのパヴェウ・パフチャレクは本展について、「分断の時代において、どのように共に生き、記憶を手渡し、新たな関係性を築いていけるのか」を問いかける実験的な場と語っている。

 移動や継承という個人的かつ普遍的なテーマを扱いながら、ポーランドと日本の文化的交差点としての意義を備える本展は、現代社会における「つながり」を再考する機会になるだろう。

笹岡由梨子とパヴェウ・パフチャレク