YAUが掘り起こす街の創造力。「アートアーバニズム」の未来を見据えて
5000以上の企業と35万人の就業者が集う、日本を代表するビジネス街である大手町・丸の内、有楽町を組み合わせた「大丸有」エリア。「アートアーバニズム」をコンセプトに、アートが都市の暮らしに介入する「YAU(Yurakucho Art Urbanism)」の「YAU OPEN STUDIO ‘25」の展示を通して、そのプログラムの実態に迫る。

アートが暮らし手にもつくり手にも浸透する状況
NPO法人大丸有エリアマネジメント協会、一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会、三菱地所株式会社により、2022年2月にスタートしたパイロットプログラム「有楽町アートアーバニズム(YAU)実行委員会」。当初の目的は、普段はあまり交わる機会のないビジネスパーソンとアーティストが街の中で同居する景色や仕組みをつくることだった。
アートフェアや展覧会への参加を目的に来ることはあるかもしれないが、日常的にアーティストやアート関係者が集まるエリアだとは言い難い「大丸有(大手町・丸の内・有楽町)」エリア。そこにアーティストの居場所ができれば、エリア内の会社に勤める多くのオフィスワーカーとアートの接点が増えるのではないか。都市生活の中に創造的で感性に響くアートの領域を融合させ、パブリックアートやアートイベントといった意味ではなく、行為や思考としてのアートそのものが街づくりと結びつくのではないか。そのような思考を表現した造語が「アートアーバニズム」だ。



YAUの立ち上げに際し、YAUオフィシャルのnoteアカウントに東京大学大学院工学系研究科教授の中島直人は「アートアーバニズムの始まりに寄せて」と題するテキストを寄稿した。『アーバニスト 魅力ある都市の創生者たち』(ちくま新書)の著者である中島は、「端的に言えば」と前提して、次のように説明する。
アーバニズムは、20世紀初頭のシカゴ派都市社会学に端を発する都市での生活様式という事実概念としての側面と、19世紀末から20世紀初頭にかけての欧州でのユルバニスムに端を発する望ましい都市居住を実現するための技術・思考の体系(その一つが都市計画である)という規範概念としての側面を併せ持ち、その二つの側面の間を自由に移ろっている。
つまり、暮らし手とつくり手の双方から都市を語れるのがアーバニズムである。アーバニズムとは、計画と生活を自由に移ろいながら両者を包含する、都市生活そのものと都市づくりの方法の実践的探求である。
従って、アートアーバニズムとは、アートがその暮らし手にもつくり手にも浸透する状況のことである。「アートのあるまちづくり」や「アートによるまちの活性化」とやや位相を異にするのは、アートは都市の置かれる作品(オブジェクト)やコンテンツというだけでなく、アーバニズムそのものに立ち入り、組み合い、抱き合うということであろう。
アートアーバニズムの実践とは具体的に、「人々の生活様式の中に創造的で共感をベースにした営みが確かに見出されること」であり、「都市づくりの方法において、従来からの客観的、科学的、工学的な課題解決アプローチに加えて、より共感的、感性的、工作的な価値創造アプローチが並走すること」だと述べている。その実践の場がYAU STUDIOであり、「ビジネス街にアーティストの居場所をつくる」ことを目指したYAU1期(2022年2〜5月)は、1966年に竣工し、2023年に閉館した有楽町ビルでスタートした。